ライブコマース業界の「口紅王子」とも呼ばれ、絶大な人気を誇る中国トップライバー・李佳琦(Austin)が一夜にして総叩きの対象となり、国営メディアの中国中央テレビも名指しで本人を批判した。攻撃の対象はブランドにまで広がり、事態の収拾がつかなくなっている。
ことの始まりは9月10日のライブ配信まで遡る。
ことの顛末
9月10日、Austinはいつも通りライブ配信を行い、スクリーンの向こう側にいる視聴者らに商品を紹介していた。紹介されたのは中国人気コスメブランド「花西子(フローラシス)」の1本79元(約1600円)のアイブロウペンシル。
紹介の途中で、ある消費者が「フローラシスの値段がどんどん高くなっている」とコメントした。これを見たAustinは顔をしかめ、「どこが高いの?」「長年ずっと79元のまま」などとすぐさま反論した。そして、言動はエスカレートしていき「たまには自分に原因がないか探して。何年も経って給料は上がった?まじめに働いているのか?」と言い放った。

この一連の発言を収めた動画が中国SNSの「ウェイボー(weibo)」に投稿され、特に「給料は上がった?」「まじめに働いているのか?」と発言したことに対する批判が殺到した。「薄情な物言いだ」「儲かりすぎて傲慢になった」「努力すれば給料が上がるのか?」「税務局お仕事です」などと本人を非難し、皮肉る投稿が爆発的に増え、ネットを騒がせる一大事となった。本人の過去の問題発言や収入などにも焦点が当てられ、とめどないバッシングが続いた。

批判の渦中にいるAustinは翌日のライブ配信で涙ながら謝罪し、「私の発言は不適切だった」と反省の意を示した。しかし、人々の反応は冷ややかであり、「独身の日(大型ECセールスイベント)に悪影響を与えたくないだけ」などと謝罪を受け入れない者が多く見られた。 Austinのウェイボーアカウントのフォロワー数は炎上後、1日で100万人以上も激減していた。
中国は今年4月に若年層の失業率がさらに悪化し、20%という大台を超えた。景気回復の見通しが不透明な中で、Austinの言葉は人々の神経を逆なでするものだった。
ブランドにも飛び火
騒動はさらにヒートアップしていき、Austinが紹介したフローラシスも槍玉に挙げられた。フローラシスのアイブロウペンシルが果たして本当に高いのかを検証すると称して、1グラムあたりの価格で他社の製品と比較し、「シュウ ウエムラ」や「YSL(イヴ・サンローラン)」よりも高いと主張する投稿が注目を集めている。さらには、金価格よりも高いと主張する投稿も見られた。

これだけにとどまらず、「日本で商品を生産している」「実は日本ブランドである」といったデマも流れ、フローラシス側が通報する事態に至った。
ライバーは諸刃の剣
こうしたライバーによる炎上騒動は他にも数多く見られた。Austinの炎上騒動と同時期に、別の男性ライバーが配信中に9月18日(満州事変が起きた日)を「良い日だ」と言ったことが批判を呼んでいる。同ライバーが所属するライブコマーススタジオ「東方甄選」は9月18日が同ライバーにとってライブ配信デビューした日であると説明し、謝罪した。これに対して、ネットでは「やはりライブコマースという業界は文化レベルが低いようだが、918も知らないのはあり得ないだろ」などと消費者らの批判が続いていた。
ライバーの不適切な言動は、商品紹介を依頼するブランドにもダメージを与える。しかし、ブランドらにとってライバーの影響力は無視できない。中国経済メディア・21世紀経済報道によると、2020年下半期では人気女性ライバー・薇婭(viya)が225億元(約4600億円)を売り上げ、ライバーたちの中でトップの成績を記録した。Austinは139億元(約2800億円)の売り上げで2位に続いた。
viyaはその後、脱税問題により公の場でめったに姿を現さなくなり、Austinは問題発言で炎上。ライバーは絶大な販促効果をもたらす一方で、トラブルのリスクもはらんだ諸刃の剣といえる。
まとめ
若者の失業率が悪化し、経済回復の見通しが不透明な中では、Austinの問題発言は消費者らの傷口に塩を塗る行為に値する。また、Austinは親身な姿勢で消費者に寄り添うイメージが強かったため、今回の不機嫌そうな表情で辛辣なセリフを吐く豹変ぶりに、これまで支えてきた大量のファンたちが激しい怒りをあらわにするのも無理はない。そのため、火の粉はフローラシスにも飛びかかり、予想外のデマの流布にブランド側が通報する事態に至った。
「独身の日」まで2カ月を切る中で、今回の炎上騒動が中国ライブコマース業界にどのような影響を及ぼしていくのかに引き続き注目していきたい。
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