中国人観光客の動向

2022年末に中国でゼロコロナ政策が撤廃されて以降、日本の観光業界は中国人の訪日客が戻るのを期待していた。しかし、2023年の4分の3が過ぎた現在、最新のデータでは、8月の訪日客数はコロナ流行前である2019年同月の85.6%まで回復したものの、中国から訪日観光客は36.4%にとどまっている。

▲中国大陸からの訪日観光客数推移(出典:日本政府観光局)

中国政府が今年8月に日本への団体旅行を解禁し、日本旅行に関する商品の検索が突如として1位にランクインしたが、その2週間後には処理水海洋放出により、訪日インバウンドの回復に影響を及ぼした。世間からの風あたりが強いことを受け、中国の旅行サイトは日本旅行商品の宣伝を控え、現在タイ、韓国、シンガポールなどへの旅行商品をサイトの上位に表示させている。

▲日本の旅行商品は海外旅行チャンネルのトップページから消えた

中国オンライン旅行最大手のTrip.comによると、国慶節大型連休の海外旅行注文数は前年より20倍増加し、人気のある旅行先はタイ、韓国、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、イギリスである。このように、期待とは裏腹に日本は人気旅行先ランキングから姿を消す結果となった。

なぜ訪日中国人の回復が遅れているのか

処理水海洋放出の影響はもちろんあるが、訪日中国人観光客の回復が遅れている理由は他にもいくつかある。

▲2023上半期中国人の海外旅行目的地(出典:中国観光研究院)

中国観光研究院によると、上半期中国人の海外旅行先のうち、タイが16.24%で1位、日本は日本への団体旅行がまだ解禁されてないにも関わらず、12.05%で2位であった。

日本とタイは、以前から中国人の人気海外旅行先として首位を争ってきたが、上半期もこの勢力図に大きな変化がないため、訪日旅行だけに限らず、全体的に中国人による海外旅行の回復が遅れていると言えるだろう。

実際に海外旅行と比べ、中国国内の観光市場が盛り上がりを見せており、上半期の旅行者数は19 年同期の77%で、観光収入は83%まで回復した。中国観光研究院の予測では、今年は通年で国内旅行者数がのべ55億人、つまり19年の90%まで回復し、国内観光収入は5兆元を超え、同年の80%以上まで回復すると予測している。

このように国内観光市場は好調で、Trip.comの4~6月期の決算は、国内旅行事業の力強い回復により売上高は2019年同期より29%増加した。その一方で、海外ホテルと航空券の予約数は2019年同期の60%に止まっている状態だ。

また、中国人が海外旅行より国内旅行を選ぶ理由として、国際便のチケット、ホテルなどの旅行費用が高いといった経済的理由や現地の治安への懸念、および世論の影響があると考えられる。

タイと韓国が中国人観光客の誘致に注力

日本は地理的に中国と近いため、以前から短距離の海外旅行先として人気があったが、最近同じくアジア圏のタイと韓国も優遇措置を打ち出し、中国人観光客の争奪戦を繰り広げている。

タイは、中国人向けに5ヶ月間の観光ビザ免除を開始したことに加え、さらにタイ首相自らが空港で中国人観光客第一陣を出迎えるなど、強いPRを行なっている。

韓国も国慶節の大型連休を控え、中国人向け電子ビザの手数料免除や、中国行きの航空便を増やすなど、年内200万人の中国人観客呼び込み計画を発表した。

このように中国人観光客の獲得競争が一段と激化する中で、日本のインバウンド業界は、訪日回復が遅れている現状に直面している。今後、航空便の回復によって中国人の海外旅行への意欲変化などを含め、引き続き最新動向をお伝えしていきます

※アイキャッチ写真:unsplash

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