中国は8月に日本への団体旅行を解禁し、訪日中国人インバウンドの回復が期待されたが、その2週間後に処理水が海洋に放出され、中国で大きな反発を招いた。これにより、10月の国慶節大型連休の訪日旅行にどう影響がでるか、両国の関心が集まっていた。

しかし、実際の報道は連休期間の日本旅行に対する人気度合いや、訪日中国人の人数など、中国と日本のメディアで全く異なる光景となった。

今年は中国の祝日である中秋節と国慶節が重なり、以前より1日多い8連休の大型連休であることに加え、団体旅行解禁後、初めての連休として、日本の観光業界から熱い視線が注がれていた。日本メディアは、空港は中国人観光客でいっぱいになり、訪日旅行が盛り上がっている様子を伝えたが、中国メディアの報道では日本旅行に関する情報は少なく、多くの観光会社が人気な旅行先ランキングに日本の名前を掲載しない状態であった。

訪日中国人インバウンド市場は、何が真実なのだろうか?

中国人の海外旅行回復状況

訪日中国人客の動向より、先に中国人の海外旅行全体を見てみよう。

中国の国内旅行市場は、ほぼコロナ前の水準まで回復したが、国際便の運航便数不足、ビザ取得問題などの理由で、海外旅行の回復に遅れが見られる。

中国国家移民局によると、国慶節連休の出入国人数は2019年より14.9%減少し、一日あたりの出入国人数は25.4%減少した。

▲2019年比 中国人の海外旅行人数の回復率予測(出典:Fastdata极数)

データ会社Fastdata极数の予測では、中国人の海外旅行人数は今年Q3は、2019年同期の55%、Q4は同70%まで回復すると発表した。完全な回復は2024年の第4四半期との見通しである。

一方で、中国人の海外旅行は人数の回復が遅れているものの、一人当たりの消費金額が増加している。

アリペイが公開した国慶節の海外旅行データによると、海外での中国人観光客一人あたりの消費金額は2019年同期の105%となった。

また、銀聯(中国銀行間決済ネットワーク運営会社)によると、9月29日~10月5日の期間中、海外のPOS端末で銀聯カードを利用した中国観光客の1日平均取引額は、前年同期比で1.3倍以上増加。また、銀聯ネットワークのQRコードを通じて行った取引件数は2019年同期の2.5倍に達した。

航空便数の回復の遅れも影響したこの期間の航空運賃の価格など、要素を総合的に見ると、国慶節の海外旅行の主力は中国の富裕層だと考えられる。

訪日旅行の真実は?

▲2019年比 連休中の中国から各国への航空便数と1日あたりの航空便回復率(出典:航班管家)

中国の航空情報アプリ、航班管家(フライトマスター)によると、連休期間中、中国から日本へ向かう航空便の数は2番目に多いが、1日あたりの航空便数は、2019年同期と比較すると、回復率は51.1%に止まる。このように、まだまだ航空便数が不足していることがわかる。

物理的距離、観光資源の豊富さなどの要素から、日本はコロナの前から、中国人の人気海外旅行先として、タイと1位を競い合う存在だった。

そんな日本が今回の国慶節連休の人気旅行先ランキングから消えたのは、処理水海洋放出後のセンシティブなタイミングなため、中国メディアと旅行会社が世論へ配慮したことが要因だと考えられる。

それでも日本に関する極少ない情報の中から国慶節の訪日中国人客の動向を探ることができそうだ。中国経済メディア「経済観察報」によると、観光会社が日本旅行関連サービスの宣伝を控える行動や、処理水の影響で団体旅行でのキャンセルのケースが増加したなど、日本旅行は一定の影響を受けたが、日本への団体旅行キャンセルが増加したことで航空券の価格が下がり、その恩恵を受けて個人旅行の人気が上がったと報道している。

実際に、上半期中国人の海外旅行先の割合では、タイが16.24%で1位、日本は日本への団体旅行がまだ解禁されてないにも関わらず、12.05%で2位であった。

このように、処理水海洋放出が訪日旅行回復へ与える影響は限定的であり、少なくとも今回の国慶節連休へ与えた影響はわずかだと考えられる。

まとめ

訪日中国客の動向は以下の3点である:

  • 国慶節連休の訪日中国人客は、回復傾向であるものの、コロナ禍からの回復が遅れている
  • 訪日中国人富裕層は世論に影響されにくい
  • 訪日旅行拡大のカギは、日中間航空便の回復に懸かっている

コロナからの回復が遅れている今、訪日人数を追求するか、一人当たりの消費水準を追求するかが日本のインバウンド業界にとって新たな課題となるだろう。


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