中国EC業界の一年で最も規模の大きい「独身の日」(ダブルイレブン)セールが10月31日から本格的に販売をスタートした。かつて驚愕な売上を更新してきたこのイベントも、近年はEC市場減速に加え、コロナ後の景気低迷により、2022年にはEC最大手のアリババが売上公開を初めて中止した。

そんな中、今年の独身の日セールはアリババが「全ネット最安値」を目標に、割引のルールを簡潔化し、キャンペーンの期間を短縮するなど、ユーザーの需要喚起に動き出した。アリババだけではなく、他のプラットフォームもこぞって「安さ」に重点を置いている。

格安ECプラットフォームが好調

▲前年比成長を果たしたプラットフォーム(公式発表より)

大手ECプラットフォームが苦戦を強いられる中、逆に景気停滞による節約志向向上の恩恵を受け、業績を伸ばしているプラットフォームも存在する。

特に格安ECのPDD(拼多多)は今年に入り、景気低迷の中でも業績が好調で、今回独身の日セールにおける百億補填(100億元相当の助成金を補填)プロジェクトの参加ユーザー数は6億2,000万人に達した。

他にも、地方市場をターゲットに安い商品を提供する快手(kuaishou)は、11月5日までのGMVが前年比85%増加し、この好成績を受け株価が高騰している。

さらに、フラッシュセールスECサイトの唯品会(VIP.com)は、ここ数年存在感が低下していたが、今回の独身の日セールはスタートから1時間で婦人服カテゴリが前年比61%増加し、メンズファッションは前年比50%増加と、良い成績を獲得した。

価格戦激化でトラブルも

「独身の日」は元々アリババが15年前に始めたセールイベントで、少数ブランドが参加する半額イベントであったが、その後EC業界だけでなく、オフラインへ展開。その過程で割引の魅力が以前より下がっただけでなく、ルールも複雑になっていった。

しかし、今年は中国の景気停滞を受け、消費者は低価格で高コスパの商品を求めるようになり、需要喚起の手段として「安さ」が再びカギとなっている。PDDやDouyinなど、競合のプレッシャーが高まる中、アリババは大幅な値引きを実施し、今年は8,000万点以上の商品を最安値で提供すると発表した。

このように最安値が求められる価格戦が激化した結果、ブランド、プラットフォーム、ライバー間のトラブルも発生している。直近では、JD(京東)が販売したあるブランドのオーブンの価格が超人気ライバーのAustin(李佳琦)が販売した同一商品より安かったため、Austinとの最安値協議が破られているとして、ブランド側がJDに販売停止を要求。

そのほか、快手の人気ライバー辛巴が定価の4分の1の価格で販売したマットレスが、10億元を売り上げたが、同ブランドの代理商がこれにより価格体系が乱され、実店舗の商売に大きく影響したと不満を寄せた。

このような「最安値」を巡る競争は、今後もしばらく続くと思われるが、過当競争の悪循環に陥り、最終的にブランドが成長する上で不利になると懸念が高まっている。

現地ブランドが躍進し、海外ブランドの苦戦が続く

▲2022年と2023年独身の日セール販売スタートから4時間の
Tmallコスメトップ20ブランド(公式発表より)

中国では国産品への愛着が高まり続けている。Tmallのコスメランキング(販売スタートから4時間の売上)では、全体的に海外ブランドの存在感が大きいが、中国国産ブランドが勢いを増していることがわかる。特に中国ブランドのPROYA(珀莱雅)が初めてロレアルを超えて売上1位に躍進した。PROYAによると、11月3日まで同社のTmall店舗GMVは18億元で前年比40%増加。Douyin店舗のGMVは4.7億元で、前年比200%増加し、両サイトのカテゴリ1位に輝いている。

Tmallのトップ20ランキングでは、去年と比べ、PROYAのほか、可复美、觅光などの国産ブランドが新たにランクインした。米大手のエスティローダーがトップ3から転落したほか、ランクインした日系ブランドの数も去年の5ブランドから3ブランドまで減少している状態だ。

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中国のEC市場は、大手が苦戦し、新興ECと格安ECにシェアを奪われる傾向が続いている。個人消費の低迷、そしてEC市場の伸び率が鈍化する中、今年も大手による売上の公表はないと予想されるが、カテゴリ別の成長状況など、追って最新情報をお伝えします。


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