アリババやテンセントなどの中国IT大手6社が2023年7~9月期決算を発表した。中国市場における消費低迷が続く中で、前四半期に比べて売上高の前年同期比伸び率が落ち込んだ企業が多く見られた。その中で、EC大手の拼多多は前四半期を上回る大幅な増収で市場から注目を集めていた。

また、各企業によるAI(人工知能)技術の開発・実用化も着実と進められており、カスタマーサービスやバーチャル試着体験、ゲームといった様々な場面で活用が見られた。

以下、中国IT企業6社の7~9月期決算内容について、詳しく見ていきたい。

アリババ

売上高:2,248億元(約4兆6,000億円) 前年同期比9%増加、市場予想を上回った
純利益:277億元(約5,700億円) 前年より黒字転換
営業利益:336億元(約6,900億円) 前年同期比34%増加

売上構成
EC(BtoC):687億元(約1兆4,000億円) 前年同期比3%増加
直営:239億元(約4,800億円) 前年同期比6%増加
EC(BtoB):51億元(約1,000億円) 前年から18%増加
越境EC:245億元(約5,000億円) 前年同期比53%増加
生活関連サービス:156億元(約3,200億円) 前年同期比16%増加
物流:228億元(約4,700億円) 前年同期比25%増加
クラウド:276億元(約5,700億円) 前年同期比2%増加
メディア/エンタメ:58億元(約1,200億円) 前年同期比11%増加
その他:481億元(約9,900億円) 前年同期比で横ばい

EC大手・アリババの売上高は前年同月比9%の増加を見せ、純利益では黒字転換を果たした。株式への投資などによって生じた利益の増加が黒字転換につながった。一方で、前四半期に比べて、売上高の前年同期比伸び率に落ち込みが見られた。

事業別の収入を詳しく見ていくと、中国EC事業ではEC(BtoC)収入が前年同期比で3%伸び、広告出稿の需要が増加したことが増収につながった。しかしながら、昨年の7~9月期ではマイナス9%の減収を記録しており、今四半期の3%の微増はやや勢いが弱く感じられた。また、「タオバオ」および「Tmall(天猫)」のオンラインGMV(流通取引総額)にわずかな減少が見られており、消費減退の様相を呈していた。直営事業ではデジタル製品等の販売が好調であるため、収入が前年同期比6%の増加を見せた。

越境EC事業では各プラットフォームが堅実な成長を見せているため、前年同期比53%増加した。生活関連サービス事業ではフードデリバリーサービス「eleme(餓了麽)」などが好調を見せ、前年同期比16%増加。物流事業では国際物流サービスにおける収益増が前年同期比25%の増収につながった。その他事業では生鮮食品スーパー「盒馬(フーマー)」やオンライン旅行会社「飛猪(Fliggy)」などが増収となったが、食品スーパー「サンアート・リテール」では昨年の消費者による買い溜めの反動で減収となり、最終的にその他事業収入は前年同期比で横ばいとなった。同社はフーマーの香港取引所上場計画を一時保留にすると発表しており、低価格戦略に注力するフーマーの収益性に対する投資家らの懸念などが原因との意見が挙がっている。

同社はユーザーを中心とした事業戦略に力を入れており、ショート動画やライブ配信などのコンテンツを増やすことで消費者らを引きつけている。また、AIの実用化も加速させており、消費者と出店者の双方に向けて積極的にAIツールを提供する姿勢を見せている。今後もユーザーの獲得に注力していくと思われる。

京東 (JD)

売上高:2,477億元(約5兆1,000億円) 前年同期比2%増加
純利益:79億元(約1,600億円) 前年同期比33%増加
営業利益:93億元(約1,900億円) 前年同期比7%増加

売上構成
直販(家電、デジタル製品):1,193億元(約2兆5,000億円) 前年同期比で横ばい
直販(日用品):760億元(約1兆6,000億円) 前年同期比2%減少
広告:195億元(約4,000億円) 前年同期比3%増加
物流/その他:329億元(約6,800億円) 前年同期比19%増加

アリババのライバル社である京東は、今四半期において増収増益を果たした。EC事業が低迷しているものの、物流事業の好調が収入を押し上げる形となった。アリババ同様に、京東も前四半期に比べて売上高の前年同期比伸び率に落ち込みが見られた。

売上高の内訳を見ていくと、メイン収入にあたる商品収入では家電やデジタル製品が前年同期比2%の減少、日用品では前年同期比で停滞が見られた。同社が低価格戦略に注力していることや、中国市場における消費低迷が背景にあると思われる。モール型のタオバオとは正反対に、京東の特徴は直販ECにある。しかし、最近ではブランドらが運営する3P(サードパーティー)の店舗を増やすことに力を入れており、出店者向けの優遇措置を打ち出してきた。そうした中で出店者数は増加傾向を見せ始め、同社は3PのGMVがいずれ直営を上回るとの見通しを明らかにした。

商品収入とは対照的に、サービス収入では物流事業が好調を見せ、増収となっている。航空運送ネットワークの構築も着々と進められており、同社のサプライチェーン拡大につながっている。

京東はコスト削減にも力を注ぎ、今四半期では一般管理費および研究開発費の減少に成功している。

拼多多(pinduoduo)

売上高:688億元(約1兆4,000億円) 前年同期比94%、市場予想を上回った
純利益:155億元(約3,200億円) 前年同期比47%増加
営業利益:167億元(約3,400億円) 前年同期比60%増加

売上構成
広告:397億元(約8,200億円) 前年同期比39%増加
手数料:292億元(約6,000億円) 前年同期比315%増加

格安商品が特徴的なEC大手の拼多多は市場予想を大幅に上回る増収を果たした。今四半期の決算発表後に、同社の株価は一時18%の上昇を見せた。アリババ、京東の両者とは対照的に、拼多多の売上高の伸び幅は前四半期を上回っていた。

同社の売上高を支える2本の柱である広告収入と手数料収入が増収を果たしており、中でも後者は前年同期比300%超の伸び率を見せている。中国消費者らの間で節約志向が高まっているため、よりコストパフォーマンスを重視する人々が増えていることが背景にあると思われる。

また、手数料収入の大幅な増収には日本にも上陸を果たしている越境ECプラットフォーム「TEMU」の急成長が関わっている。同プラットフォームは昨年9月に打ち出されて以来、北米をはじめとする世界各国の市場に上陸し、急速な事業展開を見せている。中国EC市場の競争が苛烈を極める中で、海外EC事業は同社にとって新たな成長エンジンになりつつあるようだ。

テンセント

売上高:1,546億元(約3兆2,000億円) 前年同期比10%増加
純利益:362億元(約7,400億円) 前年同期比9%減少
営業利益:485億元(約1兆円) 前年同期比6%減少
WeChatの月間アクティブユーザー数:13.4億人 前年同期比2%増加

◇売上構成
中国オンラインゲーム:327億元(約6,700億円) 前年同期比5%増加
海外オンラインゲーム:133億元(約2,700億円) 前年同期比14%増加
コンテンツ課金:297億元(約6,100億円) 前年同期比で横ばい
広告:257億元(約5,300億円) 前年同期比20%増加
フィンテック/toB:520億元(約1兆1,000億円) 前年同期比16%増加

中国最大級のSNSアプリ「ウィーチャット(WeChat)」を運営するテンセント、今四半期では広告事業の好調などにより前年同期比10%の増収を果たしたものの、純利益では前年同期比9%の減収を記録した。

収入の柱の一つであるオンラインゲーム収入は回復を見せている。中国事業は昨年同時期のマイナス7%の成長率からプラス5%の成長率に転じた。また、海外事業はさらに勢いを増しており、14%の伸び率を見せている。ロングヒットゲームの増収が事業の下支えとなった。一方で、コンテンツ課金収入は前年同期比で横ばいとなっており、ライブ配信サービス収入などの減少がひびいた。

広告事業は前年同期比で20%の増収を果たしている。ウィーチャット内の検索やショート動画機能「視頻号(チャンネル)」などにおける広告需要が増加していることが原因。分野としては、現地サービスや日用消費財などの増加が目立つ。

フィンテック事業では、ビジネスにおける決済件数の増加が増収につながった。また、toB事業では視頻号における販促関連のサービス料が増加を見せている。

今後について、テンセントは新作ゲームの開発やAI開発に力を注いでいく姿勢を示した。

バイドゥ

売上高:344億元(約7,100億円) 前年同期比6%増加、市場予想を上回った
純利益:67億元(約1,400億円) 前年より黒字転換
営業利益:63億元(約1,300億円) 前年同期比18%増加

売上構成
広告:213億元(約4,400億円)前年同期比7%増加
その他:131億元(約2,700億円)前年同期比4%増加

中国最大級の検索エンジンを運営する「バイドゥ」は、今四半期において市場予想を上回る増収を果たし、純利益は黒字転換を果たした。

そうした中で、メイン収入に当たる広告収入は前年同期比7%の増加と伸びに鈍化が見られた。同社は中国市場全体の低迷と自社ECプラットフォームによる収入が伸び悩んでいることを理由に挙げた。

また、その他収入も伸び率が4%にとどまり、前四半期の14%から減速が見られた。完全無人運転サービスを目指すロボタクシー事業では、利用件数が82万1,000件と前年同期比73%の増加となり、以前の3桁台の伸び率から落ち込んだ。また、同社はスマート交通への需要が冷え込んでいるため、クラウド事業が影響を受ける可能性があると示した。

AI事業では今年8月に自社開発のチャットボット「アーニーボット(ERNIE Bot)」を一般ユーザー向けにも公開し、10月にはさらに最新版の「ERNIE 4.0」を発表した。米AI大手・OpenAIの「ChatGPT」に対抗する姿勢を見せ、アーニーボットの実用化とマネタイズ化を推し進めている。今後はより一層AI開発に力を注ぎ、各事業分野に浸透させていくと思われる。

ネットイース

売上高:273億元(約5,600億円) 前年同期比12%増加、市場予想とほぼ同じ水準
純利益:78億元(約1,600億円) 前年同期比17%増加
営業利益:76億元(約1,600億円) 前年同期比59%増加

売上構成
オンラインゲーム:218億元(約4,500億円) 前年同期比17%増加
オンライン教育:15億元(約300億円)前年同期比10%増加
音楽ストリーミング:20億元(約410億円)前年同期比16%減少
イノベーション/その他:20億元(約410億円)前年同期比で横ばい

ゲーム大手の「ネットイース」は約1年ぶりに売上高が2桁台の伸び率を記録し、純利益も増加を果たした。

詳しく見ていくと、オンラインゲーム事業収入は前年同期比17%増加した。「第五人格(Identity V)」といった旧作ゲームが依然高い人気を誇っており、「逆水寒(Justice)」や「全明星街球派対(Dunk City Dynasty)」といった新作も多くの支持を集めており、事業成長につながった。同社は今年1月に米ゲーム大手「ブリザード・エンターテインメント」とのライセンス契約が終了したことで、『オーバーウォッチ』など数々の人気ゲームの代理運営が停止となった。そうした背景の中で、ネットイースは自社独自のゲーム開発に力を入れ、成功を収めたようだ。

オンライン教育事業ではAI技術の活用が効果を発揮したことで、収入が前年同期比10%の増加を見せていた。一方で、音楽ストリーミング事業では減収が目立ち、同社は会員制ビジネスのマネタイズ化に尽力すると示した。

ネットイースも積極的にAI技術の活用に取り組んでおり、逆水寒ではゲーム内のNPC(ノンプレーヤーキャラクター)とChatGPTのようなリアルで自由なチャットが可能だと話題になった。また、教育分野ではバーチャルキャラクターとの英会話サービスなどを打ち出し、注目を集めた。今後も、同社によるAI技術を活用したサービスが続々と登場すると思われる。

まとめ

中国消費者らの間で節約志向が高じていることを受けて、タオバオやTmall、京東といったECプラットフォームの成長には鈍化が見られており、格安商品がウリである拼多多の成長が著しい。また、越境ECプラットフォームTEMUが世界各国の市場で勢いづいており、中国EC企業らによる海外事業の拡大と競争激化が予測される。

市場におけるAI技術の浸透が深まるにつれて、各社IT企業では消費者と企業向けのツールなどが続々と打ち出されている。今後もAI技術が中国市場にどのような変化をもたらすか注目していきたい。

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