年末の足音が迫ってくる頃、中国の語学・文学専門雑誌「咬文嚼字」が例年通り今年度の中国流行語トップ10を発表した。読者からの募集、ネットでの投票、専門家の選考などを経て選ばれたキーワードの数々は、その年の政治・経済・トレンド・トピックなどに関連したものとなっている。
チャイトピは2023年度の流行語トップ10を翻訳し、解説も加えてご紹介したいと思います。
原文はこちら:
https://weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309404977795431530762
1. 新质生产力(新たな質の生産力)
新质生产力とは未来に向けて、先進的な技術に注力し、生産力に新たな質の変化をもたらすことを意味している。中国社会の発展には産業界における先進テクノロジーへの注力が不可欠であるというプロパガンダに関するキーワード。習近平主席が提唱した概念であり、当局が新エネルギーやスマートカーなどの新興産業を支援し、市場の発展を加速させようとする姿勢が表されている。
2. 双向奔赴(双方の心の距離が縮まる様)
双方が走りながら相手の方に駆けていくような、互いの気持ちが通った様子を表現したネットスラングである。フランスの作家であるシモーヌ・ド・ボーヴォワールの作品『Lettres à Nelson Algren(ネルソン・オルグレンへの手紙)』に由来した単語とされており、初めは相思相愛な二人が互いに駆け寄り、心の距離を縮める様を表していたが、今では外交の場でも使われるなど様々場面で使用されるようになった。
3. 人工智能大模型(AIビッグモデル)
AIビッグモデルとは、大規模なデータと高いディープランニング技術を持つ機械学習モデルを指している。米OpenAIのチャットボット「ChatGPT」の運用を支える大規模言語モデル(LLM)などが例に挙げられる。
昨年から世界中で巻き起こったAIブームは中国でも過熱する様相を呈しており、アリババやテンセント、バイドゥといった現地のIT大手らもAIの研究にいち早く乗り出し、独自の大規模言語モデルを打ち出してきた。また、バーチャルキャラクターとの英会話練習やネット通販におけるカスタマーサービスなど幅広い分野で実用化の兆しを見せ始めている。
4. 村超(村サッカー·スーパーリーグ)
「村超」とは「乡村足球超级联赛(村サッカー・スーパーリーグ)」の略語である。流行のきっかけは今年5月に中国・貴州省の榕江県という地方で開催された現地の住民らが参加するアマチュアのサッカー大会である。チームメンバーらのひたむきな姿勢でぶつかりながら競い合う試合動画がSNS上で爆発的な人気を見せ、瞬く間に村超という言葉が広く知れ渡った。
また、村超の人気急上昇は同地域に多大な経済効果をもたらした。現地メデイアの報道によると、サッカーリーグが開催されていた5月13日~7月29日における榕江県の宿泊業界収入は4,645万元(約9億3,000万円)に達し、前年同期比で189%の増加を見せた。
5. 特种兵式旅游(特殊部隊式旅行)
ハードなスケジュールでいくつもの観光スポットを回る旅行スタイルを指すものである。春頃にSNS上で流行し始めたキーワードであり、きっかけは今年の2月に、とある列車で旅行中の大学生らを見た中年男性がその行動に対して“青春に値打ちはない”と激励を送った動画がSNSで広まったためとされている。
ゼロコロナ政策が終了し移動規制がなくなった最初の春に、同フレーズは多くの大学生らの共感を呼んだ。そのため、金曜日の授業を終えてすぐに出発し、足が棒になるまで可能な限り多くのレジャースポットをめぐっては月曜日の朝に再び学校に戻るなど、息を吐く暇もない旅行スタイルの投稿がSNS上で急増し、大きな注目を集めた。
6. 显眼包(目立っている人)
今年5月ごろに流行り出したネット用語であり、とある人気ライブ配信者に由来しているとされている。初めの頃では、”おかしな行動”や”みっともない行動”をとる人に対して使われるネガティブな意味合いがあったものの、時間が経つにつれて徐々に”面白い”などポジティブな意味合いとして使われるようになった。
また、その対象も人だけでなく、博物館や美術館にある展示品などを指す場合もあり、使用範囲がさらに広がっている。
7. 搭子(〇〇仲間)
上海の方言に由来した言葉だとされており、日本語の「ゲーム仲間」「旅仲間」などに近い意味合いで使われる。その相手は友達の場合もあるが、「他人以上、友達未満」の関係であることも珍しくない。
中国版インスタのRED(小紅書)などを見ると、共に日本旅行に行く仲間を募集する人や筋トレ仲間を募集する人などが多く見られる。
8. 多巴胺〇〇(ドーパミン〇〇)
今年の夏頃に「ドーパミン・ドレッシング(dopamine dressing)」というファションスタイルが大人気を見せたことをきっかけに流行したトレンドに関するキーワード。
ドーパミン・ドレッシングは、“幸せホルモン”とも呼ばれるドーパミン分泌につながるとされる、明るく鮮明な色でコーディネートされた服装のことを指している。そうしたファッションのショート動画が爆発的な人気を見せたことで、コスメやドリンク業界にも「ドーパミン風」を謳い文句とした色鮮やかな商品が続々と登場し、注目を集めた。
その背景には、コロナ感染拡大が収束したことで、人々が沈んだ気持ちを振るわせようと楽しいことを求める姿勢が関係していると思われる。
9. 情绪价值(情緒的価値)
「ドーパミン」とほぼ同時期に流行したキーワード。アメリカの大学教授が提唱したマーケティング関連の用語に由来するとされており、中国では主に「楽しい」「愉快」などポジティブな感情、情緒を指している。
初めは恋愛などのコミュニケーションにまつわるキーワードだったが、使用範囲が広がり、ブランドと消費者などのビジネスの話においても使われるようになった。今年において、人々がより自身のメンタルにおける満足度を重視していることがわかる流行語である。
10. 质疑〇〇,理解〇〇,成为〇〇(〇〇を疑い、〇〇を理解し、〇〇になる)
ネットで流行したフレーズであり、昔はその言動が理解できなかった人物のことが理解できるようになり、自分もその人物のようになっている様を表す場合に使われる。その対象はドラマやアニメに登場する架空のキャラクターであったりすることが多い。
時間と経験を重ねて、かつて理解できなかったものに対して共感を抱くようになった人々が増えていると思われる。
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